第1章 宇宙・地球・環境科学とは

宇宙・地球・環境科学はどのような研究を行っているのだろうか。私たち人類の生活は、宇宙の中にある天体としての地球で営まれている。その地球上の自然環境を基盤にして私たちは活動し、社会的あるいは経済的環境や文化的環境が成立している。私たちは、子どもの頃から直接自然に接し触れることにより、そこに見いだされる自然の「不思議さ」や「なぞ」を解いてみたいという好奇心を抱いたり、自然の事物現象に「おもしろさ」を見いだし、わくわくしながらそれらを観察し多くのことを学んできた。人類は、古代よりそういった自然環境の中に存在し生成する自然物や自然現象に支えられ、影響を受け、またその中に神秘性、美しさ、荘厳さを感じ心をうたれ、時には恐れを感じながら日々生活している。たとえば、古代の人は、美しい星空を眺め、星座にまつわる神話を創り出した。また、社会が工業化される前の農業社会では、季節を知ることは重要なことであり、太陽や月、星の位置を知り、暦を発達させてきた。宇宙・地球・環境科学の目的の一つは、このような私たちの生活や社会活動に直接関わる、地球およびそれを取り巻く宇宙に顕れる自然の事物現象を研究対象とし、科学的に解明し説明することである。

宇宙・地球・環境科学を学べば何が得られるのだろうか。宇宙・地球・環境科学に関する成果は、古代より私たち人類が地球や宇宙の起原、進化を探究する過程において、その時代の科学者や古くは哲学者などによって提示され、社会に広く認知され受け入れられてきた。それは、芸術などと同じように人類により営々と築き上げられてきた文化と言える。このような宇宙・地球・環境科学に関する成果は、その当時の関係する諸科学や技術の制約、あるいは社会的状況に少なからず影響を受けるとともに、人類の持つ自然の見方や考え方を変容させてきた。たとえば、古代より人類は、地球の形や大きさ、宇宙の始まりや大きさ、われわれはどこから来てどこに行くのか、といった疑問を抱いてきた。この人類の基本的とも言える知的好奇心は、神話や宗教に基づく地球観や宇宙観を創出し、やがて科学の進歩や時代とともに科学的な地球観や宇宙観を形成する原動力となっていた。私たちは、こうした地球観や宇宙観に代表される自然の見方や考え方を学びかつ享受し、次世代に継承していくことが大切となる。それ故にこそ、人間活動の一つの文化として宇宙・地球・環境科学を学ぶ意義がある。

宇宙・地球・環境科学の研究はどういった特徴があるのだろうか。地球・宇宙・環境科学で扱うスケールには、他の科学の領域や社会科学とは違い、鉱物や宝石などを構成する原子や分子から広大な宇宙といった空間スケール、さらには地球上で起こる気象現象の短時日から、地球の誕生である約46億年前、さらに宇宙の始まりである約137億年前といった時間スケールがある。科学者は、このような空間スケールや時間スケールで起こる自然の事物現象について、忍耐強くそして創意工夫した観察や観測、調査、実験、時にはシミュレーションなどを続けて膨大なデータや科学的証拠を得て丁寧に整理し、地球や宇宙の姿を解明し描いてきた。この過程で提示された研究の結果は、科学者の活動の場である学会において、精査・検討・批判などが加えられ、修正され時には破棄され、科学者たちによってコンセンサスが得られたものが、新しい宇宙・地球・環境科学の理論として登場してきた。たとえば、古くからの静的な地球観では、大地と海洋は動かないものと信じられてきたが、その後、科学的データや証拠が集められそれに基づきいくつかの考え方が提案され、棄却されてきた。現在では、大陸と海洋は位置を変え、形を変えると考えられ、動的な地球観へと変容している。この現代の地球観であるプレート・テクトニクス説により、地球の歴史を示す様々な地質現象、現在でも起きている火山や地震などの現象が統一的に説明できるようになった。けれども、そのような統一的な説明の中には、まだ議論の余地がある問題も残されている。また、地球で起こる現象の中には、非常に多くの要素によって支配されるための本質的な複雑さがあって、原因と結果を一義的に結びつけることが難しい場合がある。

ところで、宇宙・地球・環境科学の話を私たちはどこで目にするのだろう。私たちが日々の生活において、宇宙・地球・環境科学に関する話題に最も触れることが多いのは、新聞やテレビといったメディア報道である。このメディア報道を通して伝えられる宇宙・地球・環境に関する話題は、私たちの生活に直接的・間接的に結びついているものや、興味や関心を喚起するものが多い。他方で、メディア報道で示される宇宙・地球・環境科学に関する話題について、私たちは、新しい発見や出来事、あるいは自然災害など日常生活や社会に影響する部分についての関心は高いけれども、そのメカニズムや背後にある科学的原理まで知ろうとしているだろうか。このような話題の背景にある科学的原理を学ぶことは、メディア報道が読め、正確にかつ深く理解する上で不可欠であるとともに、日常生活や社会活動に結びつける上でも必要である。加えて、自然の事物現象に関し、個人の教養をより豊かにする上でも大切である。

宇宙・地球・環境科学と社会はどのように結びついているのだろうか。今日、地球規模の問題である人為的な地球の温暖化に見られる地球環境問題や天然資源の枯渇といった代替エネルギー問題、さらにはより局所的な問題である地震や火山、津波、台風といった自然災害の問題が顕在化している。この場合、「環境」という言葉(あるいは概念)には二つの意味がある。その一つは、様々な自然現象や過程の生起する「場の条件・状況」としての自然環境であり、もう一つは、そのような状況を地球上に住む人類が「自分たちから見た都合・不都合」という視点から捉えた環境である。地球環境問題や代替エネルギー問題などは、後者の意味における環境であるとともに持続可能な社会の構築にも関わるものであり、今後人類が解決の方途を模索することになるであろう諸問題である。宇宙・地球・環境科学の研究がめざす自然の事物現象の解明と成果は、地球環境問題や代替エネルギー問題、また自然災害といった人類が直面する諸問題の解決にとって不可欠な基盤を提供するものである。一方、このような諸問題は、自然に手を加えることによって生存圏を拡大し発展させてきた人類の生き方の本質に関わるものであって、科学者が処方箋を示すだけで解決できるものではなく、人類全体にその生き方の見直しを迫るものである。たとえば、人為的な地球の温暖化の防止に関しては、世界の科学者が科学的データや証拠に基づいて提示するコンセンサスが、政治家や官僚など政策立案者によって生かされることが必要となる。だからこそ、社会の責任ある構成員(いわゆる市民)としての私たちは、宇宙・地球・環境科学について学び、自ら地球環境問題や自然災害の問題といった人類が直面する諸問題を認識し、解決策を考える態度と能力を身につけることによって、科学的に判断し意思決定することが求められる。

また、歴史的にみればある時期において、宇宙・地球・環境科学は研究者の意図にかかわらず、研究の目的が統制されたり、成果が軍事利用されてきたところもあった。このような点からも、私たちは宇宙・地球・環境科学を学んだ市民として、現在はもとより将来的にも、現代の宇宙・地球・環境科学に注意を払い、科学、技術、社会の相互作用を理解することが求められる。